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おしゃれへのハードル

美容院でファッション誌をながめていたら「駅ビルファッション」という単語が目に留まった。あるスタイリストのインタビュー記事だ。彼女は大ぶりな模様の入ったタイツにアニマル柄のミニスカートというギョッとする組み合わせをクールに着こなしていて、おしゃれ上級者の空気をビンビン放っていた。

駅ビルファッション=駅ビルに入っているようなお店の服、という意味らしかった。「今の若い人は駅ビルファッションで満足していて残念、もっと冒険しよう」みたいな内容だった。たしかにな、と思った。思ったけどちょっとモヤモヤした。

彼女が語る冒険とは、例えば代官山とか原宿にあるようなこだわりの品をそろえたショップで、自分が本当に着たいものを選ぶ、ということなんだろうか。高価なものじゃなく下北とか高円寺でもいいんだろうけど。おしゃれを仕事にしている人だから、その意見は納得できる。プロにとっては、これがおしゃれという哲学もあるだろうし。なのでこのスタイリストに反論する気持ちはない。

ただこれを読んだ読者が「駅ビルファッション=ダサい」と認識してしまうんじゃないかと気になった。駅ビルファッションの否定。駅ビルファッションで代官山とか原宿に行こうものならショップ店員に「駅ビルファッションの人だ」とジャッジされる。それが不安でますます彼女が言うところの冒険から足が遠のく。そんな展開を勝手に予想して心配になったのだ。少なくとも私は、駅ビルファッションが特にダサいとは思っていなかったので「えっ」となった。

駅ビルには、流行の服を量産して売っているお店もたしかに多いけど、個性的な服だってある。それにJRで言うならルミネとペリエとアトレでもずいぶん違うし、ルミネのショップでも新宿と横浜では売っている服が違う。これは駅を利用する層によって需要が違うから意図的にやっていると関係者に聞いたことがある。OLが多く立ち寄る新宿ルミネは20代向けオフィスカジュアルのバリエーションが多いし、横浜ルミネはお姉さん向けの大人っぽい服が多い。だから一口に駅ビルファッションとひとくくりにするのはどうなの……と思うのだが、彼女はそんなこと言いたいんではないよねー。話がそれました。

おそらく彼女は、万人ウケする服や無難な服を手に入れる場所を総称して「駅ビルファッション」と言ったのだろう。
「これを着ていれば変な目で見られませんよ~」「ある程度おしゃれに見えますよ~」
そんな一般的な価値観で揃えられたものを買う「おしゃれへの手抜き」に対する反発を、「駅ビルファッション」という単語にこめたのかもしれない。

だけど「駅ビルファッション」を買う層の中には、おしゃれに自信がない人もいるはずなのだ。手抜きというよりおしゃれ初心者。自分で選べるほど詳しくはないけど、ある程度おしゃれに思われたい。とはいえ、いきなり路面店に入るのは気後れする。とりあえず出入りしやすい駅ビルのお店でそこそこの服を買おう、という層。そういう層に対して「あなたは駅ビルファッションだからおしゃれじゃないですよ」というメッセージが伝わるとしたら、けっこう酷なことだ。

まずはとっつきやすい「駅ビルファッション」を入門編として、試着したり店員さんに相談したりすることに慣れる。そしておしゃれを楽しめるようになって路面店へ、という道筋を作ったほうが、結果的におしゃれな人を増やすことになるんじゃないかと思う。「駅ビルファッション」を否定したくない。それが私のモヤモヤの正体だ。おしゃれって、おしゃれな人の専売特許ではないはず。

昔、同僚の男性が「Paul Smithに服を買いに行きたいけど、Paul Smithに着ていく服がない」と言っていたのを思い出す。
おしゃれへのハードルって高いよね。

 

絵/ヤスコ・ロマネスコ

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